先日、映画「関心領域」(2023年、アメリカ・イギリス・ポーランド共同製作)を見ました。今回の記事はこの作品の感想になります。
映画「関心領域(The Zone of Interest)」について
「関心領域」は2023年にアメリカ、イギリス、ポーランド合作で制作された歴史ドラマ映画です。
「ユダヤ人問題の最終的解決」と呼ばれたユダヤ人絶滅計画を担った、ナチス・ドイツの最大規模の絶滅収容所であるアウシュビッツ強制収容所の所長を務めた親衛隊将校「ルドルフ・ヘス」と、その家族の「幸せな家庭」の日常を主題に描いたものです。
最初にお伝えすると、本作はホロコーストという重たいテーマを扱う作品ということもあり、この映画は万人にオススメできる作品ではないと個人的には思います。
この作品にはエンタメ的な意味での「盛り上がり」や「見せ場」「カタルシス」といったものは皆無です。さらに、ホロコースト1を描いた作品においてしばしば描かれるような、絶滅収容所の地獄のような凄惨な状況や、正視できないほど残酷な虐殺の状況を克明に描写するシーンも全くありません。
本作は、ただただ静かに淡々と、ヘス一家の「理想的な家庭の見本」ともいえる、幸福で円満そうな家族の日常を描きます。しかし、その幸福な生活と、わずか壁一枚だけで隔てられた空間では、毎日、おびただしい数の人間が虐殺されている狂った状況。それらを対比させることで、彼らが存在する状況の異常性を浮き彫りにしていきます。本作はそのような作品です。
こうした本作の特徴から、この作品をおすすめできる人は、この作品が主題とする「人は関心を向けていない領域のものごとについては認識できない」という心理学的テーマに関心のある方や、あるいは私のように昔からホロコーストというテーマに並々ならぬ関心を持ってきた人であろうなと感じた次第です。
そうした人々には、ぜひ本作を鑑賞していただきたいと思います。
壁一枚へだてた地獄

幸せなヘス一家が暮らす家の敷地から、壁一枚のみで隔てられた場所に存在するのはアウシュビッツ強制収容所。ナチス・ドイツが「ユダヤ人問題の最終的解決」と称したユダヤ人の絶滅計画を実施した施設です。
壁の向こうでは毎日のように囚人に対して怒号が浴びせられ、囚人が殺される銃声も聞こえてきます。そして広く知られているように、ガス室で「処分」された囚人たちは焼却炉で燃やされ、その灰は空高く立ち上っていきます。
これが、ヘス一家が暮らす家の「異常な」日常なわけですが、ヘス一家は壁の向こうで展開されている地獄のことなど意に介せず普通に暮らしているのです。
一家にとって、壁の向こうの出来事は「関心領域」の外にあり認識することができないのです。私は、この作品のタイトル「関心領域(英題:The Zone of Interest)」をそのように解釈しました。
本作「関心領域」はヘス一家の「関心の領域」の外側で起こっている出来事が、彼らには全く見えていないという異常な状況を淡々と描いていく作品です。
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」と通じるもの

本作「関心領域」を見終えた後、私が思い出したのは、フランス革命前夜に王妃マリー・アントワネットが言ったという有名な言葉です2。
民衆と貴族の経済的格差が絶望的なまでに拡大し、貧困の中、食事のパンすら手に入らず、民衆が「パンをよこせ!」と叫んだというエピソードを聞いたマリー・アントワネットが放ったとされる言葉、
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」
私が思うに、当時のフランスの庶民が置かれた悲惨な状況については、マリー・アントワネットが認識できる領域の外にあったのでしょう。そのため、彼女には見えなかった。想像することすらできず「パンだろうがケーキだろうがとにかく食べるものがないことに民衆は怒っているのだ」という事実は意識の外にあったのでしょう。
日本も他人事ではない
格差が生み出す分断はわたしたちが暮らす日本にとっても他人事ではありませんん。良くも悪くも日本は長きにわたって平和であり、その結果として階級の固定化がどんどん進行しています。政治家のみならずあらゆる領域で世襲が幅を利かせています。
本作品を見た多くの人が、そんな日本の現状に目を向け、問題意識を持つきっかけとなればいいと思っています。

